PAIR × DISPATCH
MIKA OKAMOTO × YUKO FUKUDA
2018年 PAIR 第4回 対談
DISPATCH
福田 祐子氏
男の美容室 「dispatch hair」
マネージャー
西宮 甲子園 今津 男性専門サロン
移動理美容車CASAプロデュース

YUKO FUKUDA PROFILE
男の美容室 「dispatch hair 」マネージャー
現在、マネジメント・マーケティング・教育・財務管理など経営全てを担う。
自身のマーケティング戦略で試行錯誤した経験を元に、LINEを活用した独自の集客方法や再来店の手法を見いだし、各地でセミナー講師やコンサルティングとしても活動中。
理容業界において常に先行くsalonのトップとして走っている。
『手伝いに入るか?』
彼女の理容業界人生は、現「dispatch hair」の社長であり彼女の父親である福田幹男氏のこの投げかけから始まった。
一家が散髪屋であったことから、子供のころからいずれこの道に入るのであろうという空気や教えは頭の片隅にあったものの、進路を悩んだとき「その道には進まない!」と言い放ち、あえてメイクの学校に進学。
その後、エステシャンとしての経験を積んだ。
エステシャンとしての仕事を経験したのち、何の当てもなかったが彼女はエステシャンの仕事を辞め、一年ほど休暇を取る。
その後、父親からの投げかけに彼女は『フロントくらいならできるか。』という気負わない答えを出し、dispatchに入社する。
そんな過去のターニングポイントを一つ一つ記憶を辿るように話してくれる彼女は、現在、多彩な能力を開花させ男の美容室「dispatch hair」マネージャ、そして二代目として常に戦略的思考と先見性をもって理容業界の最先端salonへと導く存在として凛とした姿でフロントに立つ。
◆ハサミを持たない理容師として生きること
私と彼女との出会いは10数年前。
ある会議で同じグループになり試行錯誤しながら共に共通の課題に取り組んだ仲間である。
その時から印象的だったのは、良い意味で楽観的。
思ったことを率直に口にし、何か問題が想定されそうな事があっても
『いいんじゃない?その時考えたら。』
と言い放てる説得力があった。
その根幹となる経験を彼女との対談から感じることができた。
『どうせこの業界でやるなら免許取れば?』という投げかけから、どうせ理容室で働いてるんだしと理容師免許を取得してしまう。
しかし、技術セミナーの参加をする内に技術を通して理容業界に携わる自分よりも、いかにしてその技術に付加価値を与えるか?
また、お客様が望む空間を体感技術の導入やスタッフを教育する事で提供する事が自分を奮い立たせる仕事だと確信し。ハサミを持たない理容師として生きることを選択した。
彼女は自分の能力を発揮できる場所・分野を頭で考えるよりも先に体が動いているのだ。
何か物事を起こそうとした時につきまとう懸念材料に縛られず、彼女は自身の判断力と決断力をもってすぐに行動する。
彼女の信じるものは常に自分自身なのだ。
◆勝ち負け ライバルが出てきたときに情熱を燃やせる
『スタイリストにしか笑顔を見せないお客様が自分に笑顔を見せてくれた時に『勝った!』って気持ちになるんですよ(笑)』
技術を売りにしない自分の存在を改めてお客様に認めてもらえる瞬間を、笑顔をくれるという事をバロメーターとし彼女は自分の価値をそこで実感する事が一つのモチベーションに繋がっていたのかもしれない。
すべて勝負事。勝ち負けにこだわるという自分の抵抗を知っているという彼女はお客様の心をいかに開かせれるか?が最大のテーマだった。
このために彼女はまずお客様の名前を覚えるということに専念した。
秘密のノートを作り、お客様の名前をとにかく覚えるためにお客様の印象を細かく記入し、自分流に名前を覚える努力をした。
入社当時、お店は毎日忙しく、シャッターが開くと店頭にお客様が並んでいるという状況に驚きを隠せなかったと言う。
しかしながらエステ時代では考えられなかった『職人が主役』の店内の整備やスタッフの仕事のしかたなどの光景を前にしても、絶えずお客様が来られることに身内ながら疑問でもあったと言う。
客観的に見た自身の目線から、ミーティング時に店内環境の整備やスタッフの接客の在り方など意見をしても『それは女性は気にしても、男性は気にならないから。』と改善提案はほぼ却下された。
そこで返ってくる言葉は、常に『男と女は違う』という男性目線での言葉。
どんな案も通らない。そんな時間が続いた。
そうする間に少しずつ新規客の減少に直面していくこととなった。
そこに着手すべく勝手にPOPを貼ってみたり、今まで以上に集客に対してどうしたら良いか?という取り組みが少しずつ動き始めた。
時代と共に、このままのバーバースタイルではいけないという懸念と、オーナーである福田幹男氏の夢である若手が夢を持てる新しい理容の道を開けるため、何か変えなければならないという選択の時が来た。
『自分がこの店を継ぐなら拡張。継がないなら拡張しても意味がない。』
という父親からの投げかけ。
彼女は30代という節目、そして美容室に若手が流れるなら美容室みたいなカッコ良い理容室を作れば良い!という発想のもと、父と共にsalonの拡張。
そして『後を継ぐ』という決断をする。
それが今の『dispatch hair』の始まりになる。
Dispatch 理念
本物の技術と
本物の感性と本物の接客
オーナーの夢『男の美容室』に立ちはだかった障害
『ユニセックスsalonに』
こんな案も出たなか、女性に対応してこなかった自分たちがターゲットを広げられるのか?試行錯誤した結果、これまでの男性客をターゲットに絞った形態で展開する事を決め、当時の古株のスタッフをトップに置き組織化を図った。
その月日流れ13年が経つ「dispatch hair」だが、常に彼女の壁になってきたもの。
それは『女である事』そして『娘である事』だった。
『男の人が良いと思う事と女の人が良いと思う事は違う』と常にスタッフから言われ続けてきた。
自分は正しいと思うことが、女であるということで否定される。
しかし女である事実は変えられない。
異性であるが故の好みや思考は違うのかもしれない。
しかし『人間である』ということには変わりはないという彼女の持論があった。
そう考えたら「お客様がされたら嬉しいこと」や「望んでいること」ってそんなに変わらないのではないか?という想いは揺るがなかった。
加えて娘であるという事から優遇されている事実もある中、その一線を越えるスタッフとの関係性や『娘やからええなー何も考えやんで。』というお客様からの悪気のない言葉も浴びる中、当初は心中穏やかではなかった。
しかしそれに悩んで苦労を背負っているという風に見えるより、楽観的な自分に見えた方が良いか!とさばけて見える自分を表現した。
元から彼女はそんなにタフでポジティブだったわけではない。
「子供のころのあだ名は『ねちねち子』でした!」と笑い飛ばす裏には、彼女の思考や価値観に大きく影響を与えるある出会いがあった。
尊敬する人は二人しかいない
人生に影響を与える人になど早々出会えない現実の中で、彼女が心から尊敬する人は2人だけだ。
その一人は彼女の父でありdispatch hair社長である『福田幹男氏』だ。
娘であるということで本来抱えなくても良いプレッシャーや本意ない体験はおそらく幾度となくあったであろう。
しかし彼女は胸を張って『自身の父が社長であること。自分が最も尊敬する人は父だ。』と公言することができる。
その姿は威風堂々たるものであり、常に私が彼女を尊ぶところだ。
そしてもう一人。
当時、dispatchの店舗デザインを手がけたデザイナーだ。
その人との出会いがなければ、自分はこんな風にならなかったとまで、彼女に影響を与えた存在。
その人から発せられる言葉、思考、価値観、それらは初めて与えられた世界だったと言う。
自分にはまるで持ち合わせていないものがありすぎるのに、それを受け入れることができる不思議な感覚を覚えた。
その人からdispatchのホームぺージを自社作成することをすすめられ、当初まだ手を付けていなかったITへの興味や作業に熱意を注げる自分に出会うことができた。
それが今の特化したSNSの取り組みの基盤になっている。
『好きな人や気の合う人ってたくさんいるけれど、尊敬とまでは・・・簡単には言えない。生涯この二人だけなんじゃないかなと。だけど、二人もそんな人に出会えているだけでもすごいですよね!』
と、ここでも肯定的思考で妙に納得させられる。
これらもその人の影響からくる物事の発想からなのかもしれない。
『人との出会いから変えられる事を身をもって体験した。』
あまり人に相談しない質だが何かふと自分が立ち止まってしまったときにその人の存在が浮かぶ。
彼女にとってその存在が力だ。
何を言われるかわかっていても、その存在に彼女は自ら道しるべを探しあて、選択する背中をそっと押してもらってきたのかもしれない。
彼女の経営から学ぶ戦略の原点
時は『LEON』という雑誌や『オヤジ』というワード、メンズファッションの取り上げがピークのころに差しかかっていた。
「dispatch hair」は『男の美』をコンセプトに立ち上げ、市場とまさしくマッチングしていた。
彼女の中で『今この波に乗らないと!』『乗ったら爆発する!』という勘が瞬時に働いた。
当時、SNSの普及は今ほど著しくはない中でホームページ作成にも取り組み、スタッフも一心不乱にポスティングを行い集客に勤しんだ。
ここで彼女は『LEON』やメンズ雑誌、言わばメディアに取り上げてもらうために編集社へ直接問い合わせ、企画書を何度も送り続けたという。
お金をかけずに取り上げてもらうために取材依頼を受ける事にチャンレンジしたのだ。
しかしなかなかその壁は大きい。
だが、あることをきっかけに転機がやってくる。
あるお客様が自ら応募し新聞記事のお店紹介に「dispatch hair」を投稿してくれたのだ。
それが最初に「dispatch hair」の名前が世間に広がる一手となった。
今で言う『Men's PREPPY』の業界雑誌にも掲載され、新聞やテレビの取材で取り上げられた。
話題を呼んだのは『男性の脱毛』の導入だった。
社長である福田氏が掲げる「男の美容室」というコンセプトに準じて彼女のエステシャン経験の発想と先見性から、男性の脱毛を関西圏で先駆けて理容室に取り込むことに成功したのだ。
当然、新メニューの取り込みに至るまでに既に先行くsalonの情報をベースに自らアポ取りをし、モデルケースの経営術をしっかりと吸収した。
彼女の経営の基盤となる戦略の一つにここに大きなポイントがある。
『これだ!』そう決めた時に、彼女は物怖じせず、そのフィールドや人に飛び込んでいける。
『ダメ元』『DMなんて無視されて当たり前』だから『返事が来たらラッキー!』くらいに思えばやれる。
『行動力があるって言われるけど私にしたらハードルが低いこと』
それがSNSを使いこなす彼女のスタンスであり、それらをきっかけに特許技術であるステップボーンカットの取得や福祉理容車businessなど、多くの新事業への開拓の道筋を築き上げているきっかけになっている。
ここまでの展開を可能にしている彼女の経営戦略の原点は『自分の持ち得ていない情報や経験はひるまずに取りに行く。』
スタッフやお客様が必要とするなら、どうせ『ダメ元』この心の持ちようが軸になっている。
◆仕事の上で心がけていることは『元気を与える。店の中では女優』
何も考えなくて良いならお客様とずっと話していたい。という彼女。
「色々あるけど何かあの子見てたら元気になるわ。」って思ってもらえたら良いなという想いが、働き始めてからずっと心に置いていること。
仕事においては、自身の気持ちにも様々な変化がある中でもう少し成長しなければならないという課題に向き合い、今また一つのステージを上がろうとしている彼女がいる。
止まることなく突き進んできているように見える彼女だが、常に頭に置いていることがあるという。
『常に不安要素を忘れない。不安がなくなるのが一番不安』
これで良いと思ったら終わりだと思う心理の裏には、勝ち負けにこだわる彼女の過去の経験がある。
サロンワークが終わり、この日一日何もしない瞬間に、他の人が何か先手を打ってくるのではないかという『何もやれていない自分』に常に不安が付きまとう。
その「負けたくない」という背景には『バーバー』として飛躍的に伸びた時期に感じたやりがいや希望と共に味わった裏腹な絶望感。
世間で騒がれ、会社の名前が有名になれば、すべての人が喜び幸せになるものだと思っていた。
次第に開いていくスタッフとの距離感や相次ぐ退職に頭を抱えた。
自分がしていたことは間違っていたのかと何度も自問自答した。
人が離れ、世間の興味関心が薄れ出したときに立ち去る周囲の目や存在を苦しいほどに味わう時間が続いた。
そこで気付いたことは自分やsalonの名前がちやほやされたいという感覚ではなく、スタッフが『ここで働く価値』を感じれる場にしたいとの想い。
これがうまく伝わっていなかった。
有名になる事も大切だが、外面ブランディングだけに目を奪われず、中身を充実させる事が必要なんだというメッセージを過去の経験から受けたのだ。
『認められたい。承認されたい。何かで有名になりたい。』そんな欲求が決して間違っているという事ではなく、
ある種、大切でありながらも改めて気付いたことは世間の目よりも、今、dispatchにいるスタッフそれぞれが輝けるステージを創ること。
それが自分に出来る事であるというところに彼女は行きついた。
『娘だからって辞めれないことなんてない。』
しかし、それでもdispatchを辞めるという選択がないことが彼女の覚悟である。
全て自身で決断しているのであり、その決断をどう活かすか?
そこに向き合い責任を果たそうとする彼女の意思が熱いほどに伝わる。
『今の自分を作っている自分を評価してあげたい』
彼女が最後にこのメッセージをくれた。
彼女が積み上げたこれまでの歴史の中で、何度、苦しい想いをしただろう。
何度、やるせなさに打ちひしがれただろう。
そんなときも、彼女はきっとスタッフの前でもお客様の前でも笑っていただろう。
いつも次に何をすべきかを頭の中で必死で思考回路を巡らせながら、一人salonに残り四苦八苦していたかもしれない。
彼女は逃げずに折れずに居る自分自身を認められる素晴らしい経営者だった。
自身の創り上げた全てを肯定的に受け止め、そこからまた何かを生み出す手がかりを掴み、前に進もうとしている彼女のエネルギーと志に、私は常に心を動かされてばかりいる。
一方、そんな彼女が見せる弱さや繊細さや優しさにももちろん惹かれている。
だからこそ、彼女が自分自身を大切に扱っていることが本当に喜ばしく感じた。
彼女とは、共に学び・考え・笑いあえるかけがえないパートナーである。
だからこそ 伝えたい
女であること 娘であること
それ以上に
あなたは、唯一無二の存在
『 福田 祐子 』 なんだと
いつも突き抜ける熱さ、強さ、想い一つ、全てが力となり、今、新たに「dispatch hair」は進化しようとしている。
その根底にあるものは、常に本物の経営を目指す彼女の覚悟と生き様だ。